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TOC(theory of constraints)

 経営理論の中に、TOC(theory of constraints)という言葉があります。日本語訳は「制約条件の理論」です。診断士仲間の中には、このTOCを強く取り入れている方もいらっしゃいます。私はそれほど詳しくないのですが、少しだけ紹介します。

 

 このTOCは、至極当然の事を言っています。TOCが何を言っているのか簡単に言うと【企業の利益を上げるにはボトルネック(詰まっている)工程を改善しろ】というイメージです。つまり、ボトルネック(=制約条件)の理論です。当たり前ですよね。でも、この当たり前の事をやっていない企業が多いのです。

 

 次の図は、製造業の各工程の能力を表しています。

数字は、1日に処理可能な製品数としてみて下さい。

 例えば、

・営業は1日に6個注文を取ってくる能力を持っています。

・切削工程は、設備は3個作る能力がありますが、作業者は6個作る能力を持っています。

・出荷は7個出荷する能力を持っています。

 

 経営者は製造現場上がりの技術者です。自分が作り上げた製造現場には自信を持っていて、営業マンが仕事さえとってくれば会社の業績は上向くと考えています。そこで日頃から営業マン教育、研修に力を入れ、歩合制を取り入れていましたが、一向に業績は上がりません。

 TOCの考え方では経営者のやり方はNGです。先ほどの図を見ると、ボトルネックは切削工程の設備です。この能力をあげなければ、会社全体の業績は上がりません。つまり、この会社の業績を決定してる制約条件は切削工程の設備だという事です。

 いくら営業マンが沢山注文を取ってきても会社の業績は3以上に増えません。プレス工程が頑張って作っても、切削工程の前に在庫が積みあがってしまうだけです。営業マンの仕事は数字で見えやすいのですが、設備や作業者の数字というのは正確に把握されず、管理もされていないのはよくある事です。

 もし、この会社で業績を上げようと思ったら、切削設備を増やす、もしくは生産性の高い設備に買い替える必要があります。間違っても作業者を増やしてはいけませんね。

 こうした改善を繰り返していくと、新たなボトルネック(=制約条件)が生まれます。この例では、プレス工程と組立工程です。またそれが改善出来れば、営業や切削工程がボトルネック(=制約条件)になります。経営改善はこの繰り返しです。

 

現代日本の生産性

 戦後の高度経済成長期のものづくりは、海外諸国がうらやむ程の成長ぶりでした。(もちろん私は生まれていませんが…)でも、バブルが弾けると日本の経済はどん底になります。その中で、アメリカは経済成長を続け、革新的な商品を世に送り出し続けています。この差を生んだのが、TOCの考え方だと言われています。

 日本はイケイケどんどんで、必要のない工程・不動産にも投資を繰り返しみるみる内に資産価値が膨らんでいきました。でも、それらの投資は実は価値を生んでいないのだと分かると、一気に資産価値を失ってしまい、あらゆるモノの価値が下がっていきます。本当に必要な部分にだけ投資をしていれば、そのような事は起きなかったでしょう。

 対してアメリカは、真髄を追求し、必要な部分にだけ投資を重ねた結果、効率よく経済発展を続けています。

 

 経済に限らず、日本古来の「お役所仕事」も、意味のない完成度の高い書類作り、何人もの確認を得る承認作業、証拠書類の提出・保管、どれも業績を伸ばす価値を持った仕事ではありません。こういったところに、現代日本の生産性が低いと言われている要因があるのではないかと思います。

 

 TOCを正しく理解して活用するには、それなりのお勉強や詳しいコンサルタントのお手伝いを必要としますが、今回は「ボトルネックを把握し、適切な投資をしましょう」という事を覚えておいてください。